矢野 亮 著
『しかし、誰が、どのように、分配してきたのか
――同和政策・地域有力者・都市大阪』

 
 
 
発行元 洛北出版
四六判 並製 336頁
ISBN 978-4-903127-24-8 C0036
定価(本体価格 2,500円+税)
オビ付斜めになって宙を浮遊
オビ無斜めになって宙を浮遊
オビ無背中合わせ
生きがたさへの怒り

地域有力者による「まとめあげ」
――「厄介」な分配問題をめぐって

 「自助」「自立」「扶養」などを基調とする日本の福祉においては、人々にお金やモノなどの資源を分配するさい、地域有力者による「まとめあげ」が、戦後も引きつづき行なわれてきた。地域において、お金やモノなどを、誰に、どれだけ分配するかをうまく調整し、実際に差配できたのが、この地域有力者なのである。とりわけ、五五年体制以降の自民党政権は、戦前から続くこの「まとめあげ」を、セーフティネットに見せかけた経済政策として、たえず乱用してきた。

 しかし、このような「まとめあげ」は、ほんとうに支援が必要な人に、資源が分配されにくい地域対策であった。戦前がそうであったように、人々は、自分や家族や仲間の生存がおびやかされれば、地域有力者にすがるしかないのである。ふるいにかけられ、「まとめあげ」からこぼれおちてしまった人々は、徹底的に差別されながら、活〔い〕かさず殺さずの困窮を強いられることになる。そして、生活困窮者がとりのこされつづける場所として、「地域なるもの」が形成されていくのである。そのため、「スラム化 → 地域対策 → 再スラム化 → 地域対策」という、悪循環をたどったのだ。

 とはいえ、地域有力者による「まとめあげ」に対して、「既得権だ!」といった浅薄な批判を投げつけるだけでは、わたしたちは、この悪循環をすこしも改善できないことも確かである。まずは、とりのこされた地域をめぐる政策や対策の歴史について、わたしたち一人ひとりが、知り、学び、語りあうことから始めるほかないであろう。「まちづくり」のただなかにいる住民たちによって、何が問われ、何が問われなくなってしまったのかを、あらためて問い直す必要があるのだ。
 もし、強権的な政治手法に「厄介な分配」を丸投げする安易さに流されれば、わたしたちは、超高齢社会と住宅老朽化にともない、既視感のある貧困と差別とを、いま以上に経験することになるだろう。

目次

はじめに

序 章 【本書で述べていくこと】

  • 目的と方法
  • 先行研究と本書の課題
  • 大阪における社会政策と社会運動に関する研究
  • 大阪における部落とスラムに関する研究
  • 住吉区に関する研究
  • 住吉部落に関する研究
  • 住吉のまちづくり
  • 本書の構成

第1章 【生存保障システムの変遷】

  • 身分制度の再編成
    • 前近代の身分制度
    • 近代国家の成立と伝染病対策
    • 近代国家と良民社会の形成
  • 部落改善から地方改善へ
    • 下からの取り組み
    • 下からの取り組みへの統制
    • 融和政策への政策転換
    • 生存にかかわる問題
    • 大阪における施策
    • 地区改善事業
  • 生存保障システムの体制化
    • 暗黒時代へ
    • 融和政策の展開
  • 戦後復興と同和政策
    • 「五五年体制」における同和対策

第2章 【ローカルな生存保障】

  • 大阪特有の施策
    • 大阪・部落・スラム
    • 部落改善事業から地方改善事業へ
    • 地方改善部から中央融和事業協会へ
    • 隣保事業の展開
    • 国家総動員体制――融和事業から同和事業へ
  • 大阪住吉における生活状態
    • 『都市部落の人口と家族』
    • 「都市的性格」としての社会移動
    • 住吉地区における乳児死亡率

第3章 【乳児死亡率の低減】

  • 地方改良と融和運動
    • 地方改良
    • 米騒動と住吉
    • 住吉では水平社ができなかった
    • 住吉仏教青年会
    • 地方改善地区整理事業
  • 民間金融のひろがり
  • 公的貸付制度の展開
    • 大阪の社会事業と公的庶民金融
    • 大阪庶民信用組合
    • 市設質舗
    • 質屋ニ関スル調査
    • 質屋ト金貸業
    • 市設質舗の利用状況に関する調査
    • 愛隣信用組合
  • 国家の介入と救済?
    • 融和事業一〇ヵ年計画
    • 大阪住吉における融和運動
    • 町内会・部落会の大政翼賛会への編入

第4章 【再分配システムの転換】

  • 摩擦の経緯
  • 一九六二年、摩擦のはじまり
  • 調停者としての天野要
    • 住吉部落との関係
    • その人物像
    • 住吉連合町会長という役割
  • 分配方式をめぐる争い

第5章 【再分配をめぐる闘争】

  • 「天野事件」とその背景
    • 事件に至るまで
    • 「問題」の拡大
  • 「天野事件」の発端と推移
    • 事件の始まり
    • 闘争の拡大

第6章 【再分配システムの果てに】

  • 「住吉計画」の設計思想
    • 反都市としての共同体の想像
    • スクラップ・アンド・ビルド
  • 高度経済成長という時代背景
    • 二重構造の中での部落エリア
    • 戦後レジームにおける生存をめぐる政策
    • 不良住宅改良事業の継承
    • 対象者の困難な選定
    • 対象エリアの拡大
    • 住宅建設・教育問題・売春防止・授産所建設
  • 不良住宅地区改良法から住宅地区改良法へ
    • 地域における福祉問題の再発見
    • 隣保館の復活と機能強化
    • 同和事業の効果測定
    • 住居と福祉の関係
    • 福祉と部落問題
    • 部落と医療問題
終 章 【支援を必要とする人のために】――戦後部落解放運動を問い直す
註/ 文献一覧/ あとがき/ 索 引
本書の中身

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著者紹介

矢野 亮 Yano Ryo

1976年、大阪の住吉に生まれ育つ。専門は、福祉社会学、社会福祉学。
関西学院大学院総合政策研究科総合政策専攻博士課程[前期]修了(総合政策修士)。大阪府立大学大学院人間社会学研究科社会福祉学専攻博士課程[後期]中退。立命館大学院先端総合学術研究科一貫性博士課程3年次編入・修了(博士[学術])。日本学術振興会特別研究員(DC2)、大阪国際福祉専門学校社会福祉士養成通信課程専任講師を経て、現在、龍谷大学・関西大学ほか非常勤講師、(公財)世界人権問題研究センター専任研究員。ソーシャルワーカー(社会福祉士・精神保健福祉士)。

装幀

本文デザイン・組版・カバーデザイン

洛北出版編集


制作過程の一部は、「洛北出版ブログ」を参照。

書評


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